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教育深夜便 川野邉 敏

-Profile-

川野邉 敏(かわのべ さとし)

昭和5年埼玉県生まれ。昭和28年東京外国語大学ロシア語科卒後、文部省入省。 昭和48年から国立教育研究所で国際関係・生涯学習関係の研究に従事。平成7年より常葉学園大学教育学部教授、平成16年より星槎大学教授。この間、東京大学学部および大学院、慶応大学・広島大学・筑波大学大学院等で非常勤講師。専門は比較教育・生涯学習。主な著書に『ソビエト教育の構造』(新読書社)、『ロシアの教育―過去と未来』(新読書社)、『子どものしつけ』(三一書房)、『現代に生きる教育思想』(ぎょうせい)、『世界の幼児教育』(日本らいぶらり)、『新任教師への手紙』(ぎょうせい)、『生涯学習論』(福村出版)、『教師論』(福村出版)など多数。

 
 

第22回

「言葉の冷蔵庫」づくり

今年も年末を迎え、いよいよ来春には「平成」が「思い出の年」となるかと思うと、昭和から平成に移った当時のことを思い浮かべます。私は50歳代後半、まだまだ「定年」には時間があるなと思い、軽い気持ちで「平成」を迎えていたように感じます。しかし、平成の年号は30年という短期間でしたが、社会的にも個人的にも、変化の連続で、駆け足で過ぎ去ったように感じています。多くの地震、風水害や急速な人口変動、国際情勢の複雑・多様化などに一喜一憂し、個人的には「老老介護」の現実を前にして、一日一日を無事過ごすことが人生の大切な「仕事」であるということを思い知らされたのです。

 

そんな時、妻の食事の準備のために「冷蔵庫」の扉をあけながら、食べ物の保管・蓄積・活用だけでなくから、ふと「言葉の冷蔵庫」という言葉を思い浮かべました。前回(第21回)にで、「見る、見つめる、見極める」といった昆虫画家・熊田千佳慕の天才的な仕事ぶりなどにふれましたが、それには近づけないまでも、教育関係者として生きてきた私にとって、子どもに伝えておきたい「言葉」が、あるのではないかと考えたのです。

 

  1. 「わたしたちは限りなく多くの言葉を持っているが、三つの言葉をなによりも挙げておきたい。それはパン・労働・民衆です」
  2. 「自分の中の心の最初の動きを消してはならない。それはもっとも高潔なものだからである。心の最初の動きの命ずるままに行動しなさい」
  3. 「平凡な、一般の労働者という言葉の中に、人間に対する、何か蔑視的な態度の響きがあるように思います。理想的というのはほかならぬ私たちの生活の中にあるのです」
  4. 「自分の天職を発見し、それに確信を持つこと。人間における最高の満足とは芸術に迫るような創造的な労働にあると思います」
  5. 「大切なのはその人自身の意志であり、自制なのです。することができる・してはならない・・する必要がある、という三つの事態を鋭く感じとらねばならないのです」
  6. 「肝心なのは生活がひとりでに教育するのではなく、人間が教育するのだということを確信しています。生活は人間を助けるだけです」
  7. 「思想は根であり、理想は緑の芽です。ここから人間の思考・活動・行為・情熱・相克の力強い樹が成長するのです」
  8. 「美とは深く人間的なものです。これは私たちの人生の喜びです。内的な美と外的な美の統一こそ人間の道徳的品位の美的表現なのです」
  9. 「火星に飛ぶ宇宙船の作成を目標にした人にも、自分の幸せを小麦の収穫に見出す人にも、人生の意味は本質的には全く同じです」

 

これらの言葉は、教育の仕事に長く携わってこられた先生方にとっては、ごく当たり前の言葉も多いと思いますのでと思われる内容かもしれない、単なる事例にすぎません。ただ、「冷蔵庫」ですので、開け放しや、頻繁な使用は、新鮮さを失う恐れがあります。いつ、どこで、誰に、どのような形で語り掛けるか、を準備しておくことが必要なのではないでしょうか。先生方個々人の、豊かな「言葉の冷蔵庫」の作成と効果的な活用を期待しています。